教えることで学ぶこと
2016.10.26
真岡道場 坂本貴司
僕は約15年ぶりに極真会館の道着に身を包みました。
部屋の押し入れの中に大切に保管しておいた3着ある道着のうちの1つです。
前の日に漂白剤に漬け込み、黄ばんだ道着を蘇(よみがえ)らせておきました。
「白帯」は兄貴の部屋からパクッて来ました。
極真会館・真岡道場の男子更衣室で、まるで聖なる鎧(よろい)でも、いや天使の衣(ころも)でも身にまとうような神々(こうごう)しい気分で道着を着ました。
僕:「さてと、帯を締めるか~!」
ん……?
僕:「古口先生~、帯の締め方忘れてしまいました~~~(汗)」
アリア君:「僕が教えてあげる~~~!」
僕:「お、お~すっ!お願いしま~す!!」
アリア君ありがとう!
お兄さんは助かりましたよ。
あの時のことは一生忘れませんよ!
さすがに15年ぶりですと体がなまっていて可動域が狭(せま)くなってしまいますね。
当然のごとく昔できたことが、できなくなっています。
これってショックですよね。
完全に頭も体も忘れているのです。
また一からやり直しです。
修業とはそういうものなのです。
日々の努力の積み重ねです。
反復・反復の繰り返しで体に覚えさせるしかありません。
昔、一緒に稽古をしていた先輩が言っていました。
先輩:「空手の稽古っていうのは、習字紙を一枚一枚重ねていくような努力の連続なんだよ。すぐになんてできるようにはならないよ。とにかく、急ぐことはないから基本をしっかり意識して頑張っていけよ!」
僕:「押忍!」
懐かしいな~。
確かに、最初はできなかったことも練習しているうちにできるようになったからな~~~。
空手の修行に近道なんてありません。
地道な努力の連続です。
ですが、それが「成功」するための最大のメソッドであって、その過程で「精神」を育てていくわけです。
これは空手の修行だけによりません。
勉強だって同じです。
日々の努力の成果が、テストの点数にあらわれてきます。
勉強サボって100点とれる人なんていません。
100点とる人は、それだけの努力をしているのです。
サッカーも野球も、みんな同じです。
とにかく僕は鏡を見ながらフォームをチェックしました。
・「軸」はぶれていないか?
・「正中線」は意識できているか?
・「突き」はきちんと、足と腰の連動で打てているか?
・常に腕のガードは上がっているか?
修正ポイントはいくつかありましたが、なんとか体が覚えていてくれました。
僕が昔教わっていた師範(しはん)は、基本にうるさい人でした。
僕が稽古中に疲れてガードを下げると、
師範:「は~い、坂本、ガードをさげな~い」
僕:「押~忍!」
師範:「はい、がまん、がまん!」
僕:「押~忍!」
いつもこんな感じです。
しかし僕には疑問があったのです。
僕はその疑問を先輩に聞いてみました。
僕:「なんで師範は後ろを向いているのに、僕のガードが下がっていることがわかっちゃうんですかね?」
先輩:「お前はアホか。鏡を見て全員のフォームチェックしてんだよ。」
僕:「な、なるほど~!」
先輩:「だけどな、坂本、気を付けろよ。あの人の野生の勘はすさまじいからな。何かを感じる力が強いからウソなんて速攻ばれるからな。当然お前の疲れてる意識なんてものはバレバレだ。死にたくなかったら絶対にウソだけはつくなよ。」
僕:「お、押忍(恐)」
【恐怖】との闘いでした。
いや、違う!
丁寧(ていねい)なご指導でした。
きめ細かな指導のおかげで今の僕があります。
先日、古口先生が試合に出る「ようこちゃん」とマンツーマンで打ち込みの練習をするということだったので、僕とアリア君で好きなことをやっていいと言われました。
アリア君は入門して半年なので何もできなくて当然です。
僕も白帯の時は「正拳突き」など、まともにできませんでしたから。
ただアリア君は素直な少年なので、ちょっと言えばすぐに行動に移します。
その中で、センスがいいなと思ったのは【間合】の取り方でした。
【間合】の「開け方」・「潰し方」を教えました。
見事に僕の「突き」がとどかない位置に移動し、何度も空振りさせられました。
また、僕にぶつかってくることによって【間合】を潰されました。
「突き」でも「蹴り」でもそうですが、自分の【間合】で攻撃できなければ100%の威力はでません。
ちょっと【間合】を外されただけで50%でも30%でも威力は下げられてしまいます。
相手に「突き」や「蹴り」が当たっても、ダメージを与えることができないのです。
それが【間合】というもので、どの格闘技にも共通するものです。
この【間合】を征(せい)するものが、試合をコントロールすることができます。
【間合】の取り合いが、試合や実践では大変重要になって来ます。
アリア君はこの【間合】の取り方がとても上手だなと思いました。
褒めても本人は何のことだか理解していないようでしたが、今はそんな感じでいいでしょう!
帯が上がって「組手」の練習を始めだせばきっと理解できてくるでしょう。
次に「突き」の基本を教えました。
しかし「突き」は「教える方」も「教わる方」も難しいです。
「突き」は当然、足・腰の連動から腕に力を伝える技です。
「突き」の強さとは、足・腰の強さと比例します。
いくらベンチプレスで腕の筋肉をつけても、腰の入った「突き」を打つことはできません。
「手打ち」と言われる表面に打撃を与えるだけの軽い「突き」になってしまいます。
相手を貫(つらぬ)く鋭い「突き」は、足腰の連動によってはじめて可能になります。
しかし足腰の連動を言葉で説明することは恐ろしく難しいことです。
足の動き・腰の動き・腕の動きを分解して、パーツ、パーツで見本を見せるしかありません。
そしてその一連の連動を最終的につなげていくわけですが、初心者にはなかなか理解できないですよね。
いろいろと説明を工夫しましたが、「アリア君」には難しかったようです。
しかし「アリア君」が理解できない一番の原因は、僕の説明がへたくそだからです。
僕自身がかみ砕いて説明できるほど、きちんと理解していないからです。
僕:「この説明じゃわかりにくいな~。こういうふうに説明してみようか。」
などと考えていると、その技について深く理解することができます。
教えることを工夫することで、僕自身が技についての勉強になります。
そういえば、昔教わった「師範」が言っていました。
師範:「後輩にきちんと教えることができるようになって、はじめて一人前だからね~」
今になってその言葉の意味を理解することができました。
人に教えることで、僕が学んでいます。
押忍!